事例
Case
<事例01> 名古屋市営地下鉄六番町駅アスベスト飛散事故に係る活動
<写真右>
アスベスト飛散事故のあった換気機械室前。
エレベータの左側のドアの中で作業が行われた。
<写真左>
検討会による六番町駅視察。
スモークで機械室前の風向を確認(平成26年12月4日)
●六番町駅機械室の復旧工事の決定
平成25年12月12日に名古屋市営地下鉄六番町駅の換気機械室での吹き付けアスベスト除去工事中に、養生により完全に隔離されているはずの工事現場から空気1ℓあたり700本の青石綿(クロシドライト)が駅構内に飛散する事故が発生しました。事故発生原因が特定できないまま、名古屋市交通局は平成27年2月7日の終電後、閉鎖されたままの六番町駅機械室内のアスベストの片づけや養生の取り外し工事をすることを名古屋労災職業病研究会事務局に平成27年2月5日、電話で伝えてきました。この電話を受け、名古屋労災職業病研究会、愛知健康センターは交通局営繕課長などとの面談を2月6日の午前にもち、除去したアスベストの片づけや削り取った部分を固化する処理を1週間ほど行った後、機械室内の養生の撤去や事故を起こした業者の機材の搬出作業を数日行うとの説明を受けました。2月6日の深夜に保健所による工事前チェックを受けるということや、アスベストの片づけ作業中に稼働する4台の集じん・排気装置(負圧集塵装置)の排気ダクト4本を、換気機械室前のコンコースでなく、機械室から延々地上の一番出口までのばし、飛散してもコンコースに広がらないよう配慮したことなどをお聞きしました。地下から地上までビニール製の排気ダクトがのばされる訳ですが、途中連結される集じん・排気装置はなく、機械室内のみの集じん・排気装置の排気能力ではたして地上まで空気が排気できるものか疑問だったので質問させていただいたところ、営繕課長からは排気が可能だとの回答を得ました。
●名古屋労災職業病研究会などの名古屋市交通局への働きかけ
事故から1年を間近にした平成26年12月2日、名古屋労災職業病研究会、愛知健康センター、愛知県保険医協会連名で交通局に要請書を出しました。要請の内容は、機械室の後片付け工事の際に、事故を起こした業者のみにアスベスト飛散の有無のチェックを行わせるだけでなく、事故の反省を踏まえて第三者機関による監視を行ってほしいということや、交通局の他の施設でのアスベスト除去工事において、現在、どのような再発防止策がとられているか文書で回答して欲しいというものでした。これに対し、交通局は12月18日付の回答で「六番町駅のアスベスト片づけ等の作業は保健所(大気汚染防止法)と労働基準監督署(石綿障害予防規則)にそれぞれ法律に基づいた届け出を行い、確認を受け、保健所による作業前現場点検を受けるので、第三者機関による監理は必要ありません」ということや、施工時の管理方法については、「集じん・排気装置からの排気について、デジタル粉じん計により、常時監視を行い、粉じん漏えいが認められた場合は、作業を中止する措置が講じられる」ということなどを伝えてきました。名古屋労災職業病研究会と愛知健康センター、愛知県保険医協会はこの回答を受け、平成27年2月4日、さらに要請書を提出しました。要請書の内容は、六番町駅アスベスト飛散事故は保健所、労働基準監督署のチェックを受けたにも拘らず発生したので、アスベストの片づけの工事に際して、第三者機関の監視を行って欲しいことや、作業場に設置した集じん・排気装置からの排気のデジタル粉じん計による監視のみでなく、作業場出入り口付近でのデジタル粉じん計による監視も行って欲しい等でした。この要請が工事直前であったため、冒頭に記したとおり、当方が交通局との面談をすることになりました。この要請により、交通局は自前で一台デジタル粉じん計を用意し、作業場出入り口付近での計測を行うことを決めました。
●アスベスト飛散にかかる健康対策等検討会の開催
六番町駅アスベスト飛散事故直後の平成26年1月9日、名古屋労災職業病研究会と愛知健康センター連名で、名古屋市交通局に事故の発生原因の究明や駅員、乗客の石綿ばく露実態の検証等を行うことを要請しました。また、民主党の名古屋市会議員、橋本ひろきさんに名古屋市会(市議会)で、六番町駅アスベスト飛散事故後の、交通局のアスベスト除去工事業者資格要件や施工時の管理方法について質問してもらったりもしました。アスベスト除去工事の時に、集じん・排気装置からの排気をデジタル粉じん計で常時監視することや、「石綿作業主任者」、「特別管理産業廃棄物管理責任者」を恒常的に雇用している業者で、過去15年に元請として交通局で行う工事と同等規模のアスベスト除去工事を施工した実績がある業者のみ工事を受注できることなどの資格要件の変更は、橋本さんの質問の時に交通局が打ち出したものでした。
平成26年5月10日には、交通局による「六番町駅アスベスト飛散にかかる健康対策等検討会」の第1回目が開催され、宇佐美郁冶氏(旭労災病院副院長)、上島通浩氏(名古屋市立大学大学院 医学研究課 環境保健学分野教授)、那須民江氏(中部大学生命健康科学部スポーツ保険医療学科教授)、新谷良英氏(大同分析リサーチ 環境測定センター 環境専門部長 環境計量士)、久永直見氏(愛知学泉大学家政学科教授)の5人の専門家構成員と交通局による、アスベスト飛散による乗客等への健康影響についての検証作業も始まりました。この検討会は、交通局がアスベスト飛散による健康への影響及び対応について専門家の意見を聞くために設置されたもので、アスベスト飛散事故の原因究明のために設置されたものではありませんが、事故発生原因についても議論が行われるのが興味深いところです。
平成26年8月8日に行われた第2回検討会ではアスベスト飛散原因の調査結果報告が行われ、①換気洞道部と前室部で、一部養生が剥離していたことが確認されたこと、②3台の集じん・排気装置の排気が1本にまとめられており、1台分の排気量しか機能しておらず、隔離された工事区画内が外と比べて低く保たれず、負圧不足であったこと、③集じん・排気装置本体の隙間から空気の流入が確認され、アスベスト粉じんを空気中から取り除くHEPAフィルターの取り付け部からも漏れが確認されたこと、④機械室内の吹き付けアスベストが湿潤化されていなかったことなどが報告されました。交通局はこれら4つの要素が今回の高濃度アスベスト飛散事故の原因であると推認はできるが、事故当日のアスベスト除去工事現場を見ているのは工事を行っていた業者のみで、その工事業者がアスベスト飛散につながったと考えられるこれらの事実を認めていないため、どれが決定的原因か特定できないという態度でした。第2回検討会はNHK名古屋放送局の夕方のニュースで大きく報道されました。
●健康対策等検討会による六番町駅視察とアスベスト拡散シミュレーション作成の決定
第2回健康対策等検討会では久永直見委員から、「事故当日、六番町駅でどのような空気の流れがあったのか把握するのが大事で、12月の同じ時期の、同じような気候の時に六番町駅の気流を測ることが粉じんの拡散を見るうえで大事」という意見が出され、検討会のメンバーで現場を視察し文殊の知恵で意見を出し合うことが提案されました。さらに、「どれくらいのアスベストが、どれくらいの時間、どれくらいの範囲に広まったのかを示したシミュレーションがあると、地域に対して説明する一番の内容だ」という意見も出され、検討会による六番町駅事故現場視察の実施と六番町駅構内の事故当日のアスベスト粉じん拡散状況のシミュレーションの作成が前向きに検討されることになりました。
検討会による六番町駅事故現場視察はマスコミ、一般にも公開され、平成26年12月4日の午後に実施されました。検討会の専門家構成員、交通局で煙の出る機器(スモーク・テスター)を持ち、事故の起きた換気機械室前や換気機械室に一番近い階段がつながる1番線ホーム、アスベスト飛散が確認されたコンコース上にある旅客トイレと、事故当日、空気1ℓあたり2.5本の青石綿を検出した地上の換気塔につながる換気風洞等で、機械で白い煙を発生させ風向等を確認しました。また、委託業者によって、事故時のアスベスト拡散シミュレーション作成のために必要な風向、風量等の機器による測定が平成27年1月26日から平成27年1月29日まで六番町駅構内で行われました。
●第4回健康対策等検討会における工事技術者による講演
第4回健康対策等検討会は平成27年2月9日に行われました。専門家構成員達がこれまでに交通局に出していた様々な質問に関する報告や意見交換が行われたあと、鹿島建設でアスベスト除去工事対策を担当していた㈱As-C姫野の姫野賢一郎さんの講演が行われました。姫野さんは平成27年1月29日に六番町駅をご自身で視察した上で、今回のアスベスト飛散事故の原因に関する考察を発表しました。今回の飛散事故では、集じん・排気装置本体(負圧集塵装置)に隙間があったことや、アスベスト粉じんを空気中から取り除くHEPAフィルターの取り付け部からも漏れが確認されたことなどが事故の大きな原因と考えられていますが、集じん・排気装置からの漏れだけでは200本/ℓから300本/ℓ程度の飛散になるはすで、今回のように700本/ℓの飛散になるのは考えにくく、集じん・排気装置の不備だけが問題だったのか疑問であることや、同じく、飛散防止剤の散布不足だけで、これほどのアスベスト繊維数が検出されるかも疑問との考え方を示しました。その上で、六番町駅は地上から空気が流れ込み、駅構内全体が負圧状態になっており、地上→地下鉄入口→通路→改札口→階段→ホームへの風の流れがあり、通常は地上から機械室に空気を送る、事故当日はビニールシートで封鎖されていた風洞に漏れがあり、空気が機械室に流入し、大量のアスベストをコンコースにある扉部分から押し出した可能性があるとの考えを述べさらに、機械室から流出したアスベストが階段からホームに降りていき、線路を伝いホームの両側にある大宝町と六番町の換気所から地上に排出されたのではという考えも述べました。また、アスベスト飛散が確認された平成25年12月13日の保健所の口頭による工事停止の行政指導後、5時間も集じん・排気装置を運転し、飛散状態を続けたことは人的ミスであることを指摘しました。この時、保健所の分析に使用された試料は工事開始時の前日、12月12日午前に採取されたもので、その日は工事が行われたので、六番町駅でのアスベスト飛散は12月12日午前から工事が停止された12月13日の午後まで続いたと言われています。この日は、久永専門家構成員と他2名の構成員が、機械室復旧工事開始前日に現場視察した時の報告も行われました。 次回、検討会は平成27年3月下旬の予定で、アスベスト粉じん拡散状況のシミュレーションの発表などが予定されています。第4回検討会の日に交通局の担当者に、六番町駅で始まっていた除去したアスベストの片づけや削り取った部分を固化する工事について聞いたところ、「昨晩の保健所の測定結果は異常がありませんでした」ということでした。六番町駅アスベスト飛散事故の検討会は毎回傍聴していますが、一度起きた飛散事故の原因を調査するのは容易ではないと思います。
●六番町駅アスベスト飛散事故から見えること
六番町駅アスベスト飛散事故は、他の現場で日々起きているアスベスト飛散事故が目に見える形になった事例でした。アスベストは飛散すると目に見えず、臭いもせず、また他の有害物質と違い被害が出るのは数十年後で、飛散事故が起きても世論に注意喚起することが難しいのです。
保健所、労基署のチェックだけでは飛散事故を防ぐには不十分な可能性があることもこの事故では露呈しました。大気汚染防止法による保健所チェックや、石綿障害予防規則による労働基準監督署によるチェック以外に、アスベスト除去工事やアスベスト含有建材の解体工事をより安全に行うための条例づくりを県や市町村で独自に行っていくことがこれから必要になると思います。また、日本からアスベストをなくすための国による50年後、100年後を見据えた長期計画づくりも必要になってきていると思います。
日本に輸入されたアスベストは1000万トンといわれ、そのほとんどが建材に使用されました。今後、アスベストによる健康被害をなくすためには、使用されたアスベストを安全に処理する以外に方法がないのです。