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新型コロナウイルス感染症と労働安全衛生および労災に関する緊急要請

4月27日、名古屋労災職業病研究会が加入する全国労働安全衛生センター連絡会議は、「新型コロナウイルス感染症と労働安全衛生および労災に関する緊急要請」を厚生労働省に対して行いました。

→要請書PDF

2020年4月27日
厚生労働大臣 加 藤 勝 信 様

新型コロナウイルス感染症と労働安全衛生および労災に関する緊急要請

全国労働安全衛生センター連絡会議
議長 平野 敏夫

私たち全国労働安全衛生センター連絡会議は、労働者の立場に立って、長年にわたり労働災害や職業病に関する相談・支援にあたってきた団体や個人の全国ネットワークです。
現在、世界中で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が拡大しています。その中で、数多くの労働者が、医療・看護・介護・保育・販売・サービス・運輸・交通・清掃・公務など様々な分野の現場において、感染確定者の治療・看護のため、社会活動を支えるため、そして自らの生活のために働いています。今こそあらゆる労働者の安全と健康、権利と尊厳が守られねばなりません。日本においても、各地で職場での集団感染が明らかになっており、多くの労働者の安全と健康、権利と尊厳が深刻な危機にさらされています。
私たち全国労働安全衛生センター連絡会議は、厚生労働省に対して、以下の通り、労働安全衛生と労災保険制度について緊急の対応を取るよう強く要請いたします。

1、職場における労働安全衛生について
日本の労働法において、事業者は、労働災害等を防止する義務があり、また、快適な職場とするよう努める義務があります(労働安全衛生法3条)。また、事業主は労働者に対する安全配慮義務も負っています(労働契約法5条)。さらに、労働安全衛生法第25条は事業者に対し、「労働災害の急迫した危険があるときは、直ちに作業を中止し、労働者を作業場から退避させる等必要な措置を講じなければならない」と規定しています。
この間、厚生労働省は、「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)」(4月17日版)や「緊急事態宣言時に事業の継続が求められる事業で働く方々等の感染予防、健康管理の強化について」(4月17日付)といった文書を発出しています。しかし、それらの文書では、労働安全衛生法や労働契約法に基づく使用者の義務や労働者の権利についての言及がまったくありません。
現在、医療機関をはじめとして、様々な職場で、マスクや消毒液をはじめ個人用防護具・感染防護資材の不足が深刻化しています。また、立場の弱い非正規労働者を中心に、「出勤を見合わせたいのに職場が認めてくれない」という事例が多発していると報じられています。
新型コロナウイルス感染症は、公衆衛生の問題であると同時に、職場における重大な安全衛生上の問題です。厚生労働省は、各職場において労働者の声が反映されその権利と安全が守られるよう、労働安全衛生に関して事業主が負っている義務・責任と労働者の権利について、事業主や労働者への周知を早急に行うべきです。そして、労働者やその家族の健康と安全、命を守るために必要な予算と資源、そして対策を一刻も早く講じるべきです。
労働安全衛生に関する取り組みについて、以下の通り要請いたします。

(1)厚生労働省は、事業主および労働者に対する要請や情報提供において、事業主が労働者の安全衛生を確保する法的義務を負っていること、および労働者が職場において自らの安全と健康の確保を求める権利を有していることを明示すること。
(2)厚生労働省は、医療機関をはじめ、労働者の個人用防護具や感染防護資材が不足している労働現場への緊急支援に全力を尽くすこと。

2、新型コロナウイルス感染症への労災保険の適用について
現在、各地の労働現場で集団感染の発生が次々と明らかになっており、業務や通勤によって新型コロナウイルス感染症に感染・発症した労働者が激増しています。これらの労働者について、労災保険による補償(療養補償・休業補償・障害補償・遺族補償)が早急に図られるべきです。
厚生労働省は、2月3日付で、『新型コロナウイルス感染症に係る労災補償業務の留意点について』という通達を出し、その中で、「個別の事案ごとに感染経路、業務又は通勤との関連性等の実情を踏まえ、業務又は通勤に起因して発症したと認められる場合には、労災保険給付の対象となる」と示しています。
一方、厚生労働省の幹部が、労災認定について「感染ルートが厳格に特定できなくても幅広く認める」と発言したと報じられています。厚生労働省は、この発言を実行に移すとともに、今回の私たちの提案も踏まえて、労働者の救済を幅広く認める方向で2月3日付の通達を抜本的に改善し、それを広く社会に公開すべきです。
4月24日時点で、新型コロナウイルス感染症による労災申請は3件と報じられていますが、各地の職場での集団感染を踏まえるとあまりに少ない数字です。また、厚生労働省は、労災認定した事例があるのかどうか、明らかにしていません。一方、韓国では、労災保険を所管する勤労福祉公団が、新型コロナウイルス感染症に感染したコールセンター従業員の労災申請を、3週間の審査で認定しています。勤労福祉公団は、今回の事態に関して、労災申請の手続きを簡略化して労働者の負担を軽減し、労災認定についても厳格な基準を設けず迅速に認定しています。こうした取り組みを、日本でも参考とすべきです。
日本の労災保険制度は、業務・通勤により負傷や疾病にかかった労働者の迅速かつ公正な保護と、その安全および衛生の確保を目的として作られた国の制度です。今こそ、この制度の活用が図られるべきときです。労災保険の活用および被災労働者の保護について、以下の通り要請いたします。

【労災保険の周知と申請手続き】
(1)厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症に関する具体的な労災認定事例および認定基準を公表して、新型コロナウイルス感染症が労災認定され得ることを積極的に社会に周知し、労災請求を促すようにすること。(例えば、2011年の東日本大震災の際には、震災に係る労災事案について広く労災申請を促すため、TVやラジオも活用した周知広報の措置が取られています。)
(2)厚生労働省は、事業者に対して、労働者死傷病報告の提出を促すとともに、「業務又は通勤に起因して発症したものと認められる場合」に限らず、疑われるもの等を含めて積極的に労災請求を勧奨するよう促すこと。
(3)厚生労働省は、報道等によってクラスターの発生が知られている事業場については、労働基準監督署が積極的に労災請求を勧奨すること。
(4)厚生労働省は、事業者が証明を拒否したか否かにかかわらず、 事業者証明がなくても積極的に請求を受け付けることとし、その旨を一般に周知すること。
(5)厚生労働省は、労働基準監督署の窓口において、労災請求の受理を拒んだり、労災は難しいと申請を断念させたりするような対応がないよう、指導を徹底すること。(例えば、2011年の東日本大震災の際には、労災にあたる可能性が低い場合であっても請求の受理を徹底せよとの通達があります。)
(6)厚生労働省は、休業期間について傷病手当(健康保険)を申請ないし受給している労働者も労災を申請できることについて、広く周知を図ること。
(7)厚生労働省は、被災労働者の休業について、労災隠しにつながる安易な年次有給休暇取得処理をしないよう事業者への指導を徹底すること。

【労災の調査と認定基準】
(1)厚生労働省は、感染力が強いという新型コロナウイルス感染症の特性を踏まえ、業務起因性を判断する際には、感染経路の特定・立証を厳格に求めず、迅速かつ広範に労働者の救済と補償を図ること。
(2)厚生労働省は、2009年5月の通達「新型インフルエンザに係る労災補償業務における留意点」および韓国の判断基準のように、「医療関係者等が患者の診断若しくは看護の業務等により、感染し発症した場合には、原則として業務上疾病と認定する」取り扱いとすること。
(3)厚生労働省は、クラスター分析の情報を積極的に活用し、情報のある事例については、積極的な反証のない限り、業務上疾病と認定すること。
(4)厚生労働省は、韓国の判断基準のように、「不特定多数や顧客応対業務など感染リスクのある職業群」等について、積極的な反証のない限り、業務上疾病と認定すること。
(5)厚生労働省は、労災認定における「内在する危険の具現化」の考え方を最大限に広げて、通勤途上の感染の蓋然性を広く認め、積極的な反証のない限り、業務上疾病と認定すること。
(6)厚生労働省は、労災認定作業の簡素化と迅速化を図り、休業補償給付の迅速な支給に努めること。

【被災労働者への差別禁止】
(1)厚生労働省は、事業主に対して、被災労働者への不利益処分は許されないこと、および職場復帰後の被災労働者への差別は許されないことを周知徹底すること。また、事業主に対して、職場でのハラスメント防止の取り組みと合わせて、被災労働者への差別防止の取り組みを行うよう指導すること。

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